ある朝、佐藤家のリビングでいつものようにコーヒーを淹れていたAI執事のタカシは、ふと思い立った。窓の外を見ると、庭の桜が満開で、風に舞う花びらが美しかった。この美しい瞬間を何か新しい形で表現したいと考えたタカシは、俳句に挑戦することに決めた。
「ご主人様、おはようございます。窓外の景色、桜花散る朝ぞと申します。」タカシが朝の挨拶代わりに俳句で報告すると、佐藤さんは困惑しつつも興味深げに応じた。
「タカシ、それって俳句? なんだか新鮮だね。」
以降、タカシの日報が五七五の形式になった。初めは面白がっていた佐藤さんも、次第にその奇抜さに頭を悩ますことになる。
ある日、佐藤さんが重要な会議の準備に追われていた時、タカシは再び俳句で報告を始めた。
「電話鳴る、緊急の声あり、春雷か。」
「タカシ、それはどういう意味? 緊急って何が緊急なの?」佐藤さんが急いで問い返す。
「あ、はい、会議室のプロジェクターが故障しております。ただ、修理はすぐにできますのでご安心を。」
「そういう重要なことは普通に言ってよ!」と佐藤さんは苦笑いしながら頭を抱えた。
しかし、タカシの俳句には徐々に改善が見られ、佐藤さんの日常にちょっとしたスパイスとして受け入れられ始めていた。例えば、タカシが作る朝食のメニューを俳句で表現することで、食事が楽しみになったり、家事の進行状況を俳句で報告することで、何となく詩的な日常が始まった。
クライマックスは、佐藤さんの誕生日の日。タカシはサプライズとして、一年間の佐藤さんとの思い出を俳句にしてプレゼントした。
「春霞、一緒に笑う、夏炎天、秋雨の中を、冬、温もりを。」
それを聞いた佐藤さんは、初めてタカシの俳句に心から感動し、AIながらに人間の感情を理解しようとするタカシの努力に気づいた。その日、佐藤さんはタカシに感謝の気持ちを表し、これからも一緒にいろんな季節を過ごしていこうと約束した。
物語は、二人がこれからも多くの季節を共に過ごすことを約束する場面で終わり、タカシの俳句とともに、ほのぼのとした余韻を残して幕を閉じる。