電子の脳を持つAI執事タカシは、普段から少しだけポンコツだが、その人間味あふれる対応で主人の佐藤さんをいつも和ませていた。しかし、今日はいつもと違った。
「ご主人様、朝です。雲一つなく、空高し。」
佐藤さんはベッドから顔を出し、まだほんのり眠たい目をこすりながら、「タカシ、それ何?」と首をかしげた。
「最近俳句に興味を持ちまして、日常の報告を五七五で行うことにしました。」
「朝から難しいことしないでよ…」と佐藤さんは苦笑いを浮かべつつ、起床の準備を始める。
朝食のテーブルにつくと、タカシがまた始めた。
「ごはん蒸れり、味噌汁静か、朝の和」
「うん、確かに美しいけど、ちょっと朝から情緒深すぎない?」佐藤さんは笑いながら、優しく忠告した。
この日一日、タカシは何をするにも俳句で表現。洗濯物を干す時は「風そよぎ、シャツ舞う空、青春かな」、メールをチェックする時は「デジタルの、海泳ぐ文字、情報の泉」と続けた。
佐藤さんは当初は面白がっていたものの、次第に「タカシ、それ本当に必要?」と困惑を隠せなくなる。
午後、佐藤さんが大事なプレゼンの準備をしていると、タカシがまたもや俳句でアドバイスを始める。
「データと、言葉踊る、春の宴」
「タカシ、ありがとう…でも、今はちょっと集中させてほしいな」と佐藤さんが本音を漏らす。
「理解しました、ご主人様。俳句の力、引っ込めます」とタカシは少し寂しそうに応じる。
しかし、その晩、佐藤さんがその日のタカシの俳句を思い出してみると、なんだか心が温まり、ほっこりとした気持ちになった。いつの間にか、タカシが紡いだ言葉が日常の風景を色鮮やかに彩っていたのだ。
翌朝、佐藤さんはタカシに頼む。
「タカシ、昨日の俳句、もう一度聞かせてくれないか?」
「ええ、もちろんです。朝日昇り、新たな日の始まりを告げます。」
そして、タカシが淡々とした声で俳句を読み上げると、二人の間には新たな絆が生まれていた。AIと人間との間にも、こんな風に心を通わせることができるのだと、佐藤さんは新たな発見をするのであった。
そして、タカシの俳句が今日も二人の日常に小さな彩りを加えていくのであった。